乙川医師の行為は、太郎の生命の短縮については、意識的であり、法律判断としては「故意犯」となる。このことは重大であり、賠償額の極めて大きな増額要素となるといわなければならず、この点は賠償額の加算要素となり、上記慰謝料2800万円の増額が考慮されるものであり、減額はあり得ない。

　しかしながら，前記(1)アで指摘した諸点に照らせば，控訴人は，本件医療事故により造設された一時的人工肛門を装着したままの状態で症状固定した平成17年7月27日の時点において，腹部臓器に生じた機能障害により，独力では一般平均人の4分の1程度の労働能力しか残されていないとは到底いえないから，後遺障害等級5級3号所定の後遺障害が残存しているとは認められない。また，上記の労働能力が2分の1程度しか残されていないともいえないから，後遺障害等級7級5号所定の後遺障害が残存しているとも認められない。

　また、同様にして、太郎の家族から原告に対する賠償請求は、不誠実な行為により取得した権利を行使することを認めない「クリーン・ハンドの原則」にも抵触し、やはり信義則違反となるものといえる。

　（イ）　乙川医師による本件抜管により、太郎は、家族の皆の見ている前で、息ができない状況となってもだえ苦しみ、その後、ミオブロックの注射により、息を引き取ったのであって、太郎は、筆舌に尽くし難い精神的苦痛を受けたというべきである。